先日の日経新聞にあった、ある企業が行っていた壮大な粉飾決算に対する記事があった。「粉飾決算」というと言い方はものすごく悪いが、どの企業も「少なからず」何らかの「修正」をしているように感じる。
一般的に言われる粉飾決算とは、本当は赤字なのに、数字の操作を施して黒字に見せかけるというもの。記事にあったその会社も、銀行からよりお金を借りるために、銀行毎にいくつも決算書を作り、大きな数字の操作を行っていたというものだ。その会社はコロナ禍において、「逆に数字が安定し過ぎている」と疑われた結果、発覚したようだ。役員や税理士も含めた関係者はもう逮捕されている。
私の顧問先には、全く粉飾をしていなかったという会社はかなり少ない。皆、業績が悪く苦戦していた為、銀行から見放されないように、何らかの形で数字を触っていた。以前は銀行も「ある程度」は分かった上で対応していたようだが、業績が上がる気配がない場合は、当然対応は変わってくる。銀行からのコンサルティング依頼の場合は、そういう面も踏まえて依頼される。1年で利益を上げて欲しい。2年で何とかして欲しい。以前は何度も言われたものだ。
その中で、1行だけでなく、メガバンクも含む多くの銀行から多額の借入金をしている会社のコンサルティングを行った事がある。借入金は「売上高以上」にあり、その「金利だけ」で億単位もあった会社だ。それだけでもある意味凄いレベルの会社だ。前任のコンサルティング会社やコンサルタントが何年もいたらしいが、その悪化は全く止まらなかった。もう手の施しようがないという感じだっただろう。最後の最後に「敗戦処理的」に私が駆り出された。結果としては、その会社は半年で良化の兆し見せ、翌年の決算から劇的に利益は上がり、その会社は文字通り「大復活」を遂げた。
その会社は、過去の多大な粉飾も既に明るみになっており、その中での改善だった。しかし序盤において、そのコンサルティングを進めていくうち、私の中で徐々に「違和感」が出てくるようになった。「何かおかしい」と。その違和感が現実となったやりとりは今でも鮮明に覚えている。その会社の社長と専務を会社から少し離れたファミリーレストランに呼び出し、もう隠し事はないかと静かに問い詰めた。かなりの時間が経過後、2人で顔を合わせた後、そこで初めて、まだ隠している「大きな数字操作」の話を聞いた。その金額は過去の粉飾に加えて更に数億円。人生で血の気が引いたことが3回位あったとすれば、そのうちの1回は間違いなくこの瞬間だった。
もう銀行団には、今後の数字の公表も、更なる実態の公表も、改善への道筋の公表も全て済んでいる。今更、まだこんなにいっぱい隠していました、などと言ったら、その会社は間違いなく支援は打ち切られるであろう。数百人いる社員も皆、解散となる。いや、もっと正直に言うと、私は自分の立場の事も考えていたかもしれない。「今更言えるはずもない」と。
結果、私はその事実は飲み込む事にした。会社の社長と専務、そして経理の女子社員1名、そして私しかその事実は知らない。その後、その会社の改善は順調に進んだ。利益改善は続き、銀行団とのバンクミーティングも4年程で解かれた。その先も大きな利益を出し続けなければならなかったが、皆で頑張れば何とかなる状態にまでなった。それ位の体制と社風は定着させる事ができた。私のコンサルティング人生の中でも会心のコンサルティングの1つだったと思う。
しかしその会社の社長とは、初対面の時から「別の違和感」は感じていた。「この人はダメだな」とかなり強く感じていた。銀行からのコンサルティング依頼だから引き受けたが、直接の依頼なら断ったかもしれない。というより、そういう人達は私などには決して依頼してこない。多分、なんか見抜かれそうだと思うのだろう。というより、うまく「操作」できないと思うのではないか。
その会社には5年以上関わった。しかし10年まではやっていない。その社長は「全て」を知っている私が疎ましかったのだろう。途中で、銀行も含めていろいろと画策しているのは知っていた。結果、私はその会社から身を引いた。自分から身を引いた。その際に、銀行には上記の事は一切言っていない。全て言ってやろうかな、とも思ったが、その時はやめた。もうこんな会社に関わるのはやめようと思った。あれからもう数年経つ。その会社の事は社員の人達を通じて多少は耳に入ってきている。そして社員の人達からは未だに強く感謝されている事は本当に有難い。
上記は私自身の苦い思い出の一つだ。あの時、全てを打ち明けていたら今頃どうなっていただろう。そう今でもよく思う時がある。しかし、「粉飾」という言葉を聞くたびに、その時の事が思い出される。ドラマではないが、隠し事や嘘はやはりよくない。